花粉症と「衛生仮説」
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「衛生仮説」とは、非常に衛生的な社会で生まれ育つと、免疫細胞のTh2細胞が増えすぎて、 免疫バランスを崩し、アレルギー疾患にかかりやすくなるという考え方です。
Th2細胞とは
免疫は、免疫システムの司令塔のような役割を果たしているヘルパーT細胞によって調整されています。 そして、ヘルパーT細胞は、外敵である免疫細胞に直接司令を出すTh1細胞と 抗体を作る免疫細胞に司令を出すTh2細胞に分類されています。 そして、Th1細胞とTh2細胞は、お互いの動きを抑制しあうことでバランスをとっていると考えられ、 そのバランスが崩れ、Th2細胞が優勢になるとアレルギーが起こると考えられています。
「寄生虫に感染していないから、花粉症にかかりやすくなった」という話は、どこかで聞いたことがあるかと思います。
これを受けて、文部科学省が6年間(1997-2002)行った「スギ花粉症克服に向けた総合研究」の中で、 慈恵医大と宮崎医科大学の耳鼻咽喉科・寄生虫学教室が協力して、 ヒトに感染して症状を出すことがわかっているブタ回虫の感染症が多い地域で、 スギ花粉症などのアレルギー性鼻炎の患者さんを調査しました。
スギ抗体保有率 花粉症症状の有無 ブタ回虫に感染したヒト 58% 33% ブタ回虫に感染したことがない人 28% 18% 引用:『スギ花粉症は舌下免疫療法(SLIT)でよくなる!: まったく新しいアレルギーの根本治療』永倉仁史
関連:花粉症とスギ花粉症
報告書の原文は、インターネット上で、少し検索しただけでは見つかりませんでしたが、 花粉症に関しては、明確な結果が出てくるまで、「衛生仮説」とは少し距離を置いたほうが良さそうです。
もともとの衛生仮説は、
イギリスのStrachanという研究者達で、彼らは1958年に英国で生まれた新生児約1万7千人を対象に追跡調査を行い、 アレルギーの発症に何が影響を及ぼすか解析しました。 その結果、兄や姉のいる弟妹ほど、統計学的にアレルギーに罹りにくいことが判りました。 この結果を見て彼らは、弟や妹の方が兄姉から感染する機会が多いためにアレルギーになりにくいのではと考えて、 衛生状態が関与する仮説ということで「衛生仮説」と呼んで提唱したのです。
引用:アレルギーの患者さんはなぜ増えているのか
実験が行われた2002年以降に出版された本でも「環境仮説」を肯定的に書かれた本もあります。 それを含めて、花粉症に関しては、「環境仮説」は、中立の立場から眺めたほうが良さそうです。
参考:『花粉症のワクチンをつくる! (岩波科学ライブラリー)』石井保之