花粉症の根本的な治療法、舌下免疫療法(SLIT)とは
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毎年、春がくると憂鬱になる方は多いと思います。 本来、一番、気持ちのいい季節のはずですが、日本では、スギ花粉が飛んでいます。 花粉症の症状があるととてもつらい季節です。 ほとんどの人は、もう何年も春が気持ちが良いと思ったことはないのではないでしょうか。
この花粉症、薬で症状を抑える治療だけでなく、根治する治療法が存在するのはご存知ですか?
「減感作療法」や「免疫療法」と呼ばれるアレルギー症状が起きない体にする治療方法です。 この治療は、かなり古くから存在していましたが、数年間、通院して注射による治療を続ける必要があることから、 実際に治療を受ける方は、花粉症の症状がかなりひどい、 あるいは、花粉症の症状を抑える薬の副作用(眠気)が強い方が中心でした。
2014年10月から、2014年10月から、皮下免疫療法(SCIT)の欠点を改良した、 舌下免疫療法が、日本でも認可されスギ花粉症とダニアレルギーで、保険診療が可能になりました。 注射でアレルゲンを投与する皮下免疫療法と異なり、 保険診療可能なアレルゲンの種類は、少ないものの、 注射の痛みと、通院回数を減らして治療を受けることが可能になりました。
舌下免疫療法の保険診療が可能になったことで、治療を行うことができる診療施設が増えてきています。 この治療を受け安い環境が整ってきました。
舌下免疫療法(SLIT)
皮下免疫療法(SCIT)は、花粉症に対して非常に有効な治療法で、欧米を中心に確立した治療法として実績を上げてきました。 この治療方法は、「減感作療法」「免疫療法」とも呼ばれ、アレルギー反応自体を起こさないようにする根本的な治療法です。
自動車や工作機械の運転を行う方、花粉症の症状が強い方、 薬の副作用で、眠気の強くでる方は、治療を検討する価値があるかと思います。
口の中にワクチンを滴下し、そのまま数分維持させるだけで良い舌下免疫療法は、皮下免疫療法(SCIT)と低し、 毎回アレルゲン皮下注射することもなく、通院回数も減らすことができる治療法です。
今後、研究が進むことで、免疫療法は、その多くが舌下免疫療法(SLIT)に移行していくものと思われます。
治療に利用できるアレルゲン
保険診療で利用できる舌下免疫療法用のアレルゲンは、「スギ花粉舌下液」と「ダニ舌下錠」になります。 イネ科花粉に付いては、海外で認証されているものは存在します「5Grass Mix」、「GRAZAX®」。 しかし、日本でのイネ科花粉に対応できるかについては見つけることはできませんでした。 イネ科花粉は、日本では、認証されていないので、自費診療になります。
舌下減感作療法「SLIT(スリット)減感作療法」(スギ花粉)は、2014年(平成26年6月)に、保険適用されました。
治療用と記述されているところが利用できるアレルゲンです。
日本アレルギー学会「アレルゲン免疫療法(減感作療法)eラーニング」
日本で認可されていないアレルゲンは、日本アレルギー学会を経由して輸入することができるそうです。
Patients can play on with a sublingual immunotherapy grass mix
5Grass Mix イネ科の舌下免疫療法用アレルゲン(2008年発売)
http://www.dokteronline.com/en/grazax/
http://ir.alk-abello.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=950358
ALK GRAZAX® イネ科(ティモシー)の舌下免疫療法用アレルゲン(2006年発売)
スギ花粉症の舌下減感作療法の臨床研究報告書(平成21年10月)
Allergens News Network メールニュース No.15
減感作療法でまず紹介されるハチ毒アレルギーについても、皮下免疫療法だけでなく、舌下免疫療法も既に行われているようです。※保険適用外です。
出典:「スギ花粉症は舌下免疫療法(SLIT)でよくなる!: まったく新しいアレルギーの根本治療」永倉仁史
アレルゲンは口内で吸収させます。
皮下注射で、アレルゲンを吸収させる方法が見つかってから、 舌下でアレルゲンを吸収させることが治療に有効であると見つかるまで、かなり時間がかかっています。
1911年の免疫療法の発見以来、欧米では、既に多くのアレルギー治療用エキス(ワクチン)が開発され、 皮下注射による免疫療法が一般的に行われてきました。
しかし、痛み、腫れ、まれにアナフィラキシーショックを起こすことがあるため、アレルギー専門家は、皮下免疫療法(SCIT)を改良して、 より安全で、多くの人が受けやすい、効果のより優れた免疫療法を探し続けました。
治療のための抗原エキスを皮下注射以外の方法で、体内に取り入れるために、さまざまな方法が試されました。
鼻からの点鼻薬、気管からの吸入薬という方法は、アレルギー反応が強く起こるため不成功に終わりました。
食物アレルギーでは、「経口免疫療法」という方法があります。 これは、卵や小麦など、自分のアレルギーの原因となっている食品をごく少量から、 少しずつ増やして摂取し、次第にアレルギーの原因物質を食べられるようにする治療です。
しかし、スギ花粉は、経口で摂取しても効果を上げることはできませんでした。
その後、皮下注射で体内に投与していたエキスを舌の下において治療効果を得る方法が確立されました。
舌下でアレルゲンを吸収させることが治療に有効なことが報告されたのは 1986年に、イギリスの研究グループによって、ハウスダストのアレルギー性鼻炎に効果があることが報告されたのが始まりです。 ついで、1990年に、イタリアの研究グループが喘息やアレルギー性鼻炎に効果があることを発表されました。
その仕組みは、舌の下の口腔内粘膜によって薬の成分が吸収され、その情報が顎下(アゴの下)のリンパ節に行き、 そこに存在する免疫細胞が応答して、アレルギーが起こらないように免疫応答すると考えられています。
鼻、口、のど、気管は連続した「上気道」と呼ばれる場所ですが、 鼻と気管には、アレルギー細胞がたくさんあってアレルギー反応が引き起こしています。 これに対し、舌下には、アレルギー細胞は少なく、 口腔ランゲルハンス細胞と呼ばれる「樹状細胞(dendritic cell)」が存在しています。
樹状細胞は、治療ワクチンを体内に投与した時、これを取り込み、その情報を他の免疫細胞に伝えます。 このため、アレルギーが起こらないようにさせる免疫システム、つまり免疫寛容が起こると考えられています。
治験での治療実績
1000人を超えるスギ花粉症患者に、1年6ヶ月に渡り、スギ花粉舌下免疫療法ワクチンを臨床研究で使用した結果、 2年目まで維持療法を規則正しく継続した方の約80%で症状が軽くなったり、大幅な改善を示しました。 また、約10%の方は、花粉シーズンのピーク時にもほとんど薬を使わずにすみました。効果が確認できなかった方は、10%でした。
そして、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどに対してだけでなく、眼の症状にも効果のあることが分かりました。 スギ花粉症の皮下免疫療法(SCIT)とほぼおなじ効果があることが確認できました。
注意点として、スギ花粉症の治療では、スギ花粉症のアレルギーの軽減しか期待できないため、 温度差やホコリ、空気の細かい粒子などの、スギ花粉以外の鼻過敏症の症状を併発している場合は、 総合的な症状の軽減は少なくなります。そのため、治療に対する満足度も下がります。 そこで、治療を始める前に、スギ花粉によるアレルギーなのかどうか確かめることが重要になります。
免疫療法を実施すると他のアレルギーを予防することができる
アレルギー疾患は、アレルギー性鼻炎や喘息症状、アトピー性皮膚炎というように、 成長の過程において、臨床症状が変化して現れることが良くあります。 成長とともに、喘息やアレルギー疾患が姿を変えて現れる減少を「アレルギーマーチ」と呼びます。
免疫療法を実施すると、現在治療しているアレルギー症状が改善されるだけでなく、 将来、新たに発症する他のアレルギーが予防できることがわかっています。 これは、ヨーロッパでの治験の結果によるものです。
ヨーロッパで、舌下免疫療法(SLIT)を受けた花粉症を持つ子供たちに対して、 その間に他のアレルギー症状が発症する割合を調べた結果があります。
舌下免疫療法(SLIT) | 実施したグループ | 実施していないグループ |
---|---|---|
母数 | 45人 | 44人 |
新たに喘息を発症した人数 | 8人(17.8%) | 18人(40.9%) |
成人で、通年性の(ハウスダスト)アレルギー性鼻炎を持つ患者に、 ハウスダストの舌下免疫療法(SLIT)を実施し、その後、15年間アレルギー疾患の発祥を比較しました。
舌下免疫療法(SLIT)実施機関 | 受けていないグループ | 3年 | 4年 | 5年 |
---|---|---|---|---|
15年間に何らかの発症した人数 | 100% | 21% | 12% | 11% |
日本では、スギ花粉症とダニアレルギーに対する保険診療が始まったばかりですが、 これからいろいろな情報が集まってくるものと思われます。
舌下免疫療法(SLIT)の副作用
皮下免疫療法(SCIT)と比べ、アナフィラキシーなどの重度の副作用が、ほとんど発生しないのが特徴ですが、 軽度な副作用は、比較的多くの方で確認されます。
軽度の副作用として、
口の中、耳、喉などが
- むず痒くなる
- 違和感を覚える
- 唇が腫れる
- 咳が出る
- 胃部の不快感が出る
これらの症状は、比較的多くの方で確認されますが、程度は軽く、短期間で軽くなる、あるいは消失する場合がほとんどです。
スギ舌下免疫療法(SLIT)の服薬スケジュール
基本的な服薬スケジュールです。実際の治療のスケジュール、 通院の頻度、予想される治療費については、診療を受けられる医療機関に問い合わせてください。
初めて、治療薬を舌下投与した後、副作用が出ないか、30分後に再度医師に診察してもらいます。 初回の治療で何も起こらなければ、自宅で、少しずつ、増量しながら舌下投与し続けます。
経過日 | アレルゲンのパッケージ | プッシュ回数 |
---|---|---|
1 | 200JAUボトル | 1 |
2 | 1 | |
3 | 2 | |
4 | 2 | |
5 | 3 | |
6 | 4 | |
7 | 5 | |
8 | 2000JAUボトル | 1 |
9 | 1 | |
10 | 2 | |
11 | 2 | |
12 | 3 | |
13 | 4 | |
14 | 5 | |
15日以降 | 2000JAUアルミパック | 1包 |
JAU : 日本独自のアレルゲン活性単位
14日までを増量期、15日以降を維持期と呼びます。
まとめ
スギ花粉症の症状がひどい場合、ハウスダストやダニが原因のアレルギー性鼻炎、 喘息をお持ちの場合は、検討してみる価値が有ると思います。
最後に
この記事は、書籍「スギ花粉症は舌下免疫療法(SLIT)でよくなる!: まったく新しいアレルギーの根本治療」(永倉仁史)を参考にしました。