フッ化水素酸の原料変更って、半導体メーカーで行えるの?
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お隣の半島で、供給不安が発生しているフッ化水素酸が、ロシアから購入できる可能性が示されました。
半導体製造メーカーの経験も、フッ化水素酸メーカーの経験もないので推測ですが、ロシア産のフッ化水素酸、おそらく、問題なく使えます。でも、おそらくです。
ただ、実際に、実生産に、ロシア産のフッ化水素酸を使用するかは、不透明です。何らかの要因でうまく行かなかったときの収益への影響が大きいからです。
政治的な視点から考えるだけでも、使用したら、ロシアに厳しいEUやアメリカがどう動くかが楽しみです。
商習慣的な視点で考えると、素材業界では、問題が発生した時、原因が不明でも、材料メーカーが損失の一部を補填したり、追加費用無しで原因追求の調査を行うことが多いです。自動車業界も、このような商習慣があると思います。
しかしロシアの材料メーカーには、「技術流出を防止する枠組み」(ワッセナー・アレンジメント?)があると思うので、技術協力を依頼できません。
半導体製造の条件設定でも、材料メーカーの技術支援を受けている場合、製造メーカー側では、そのノウハウがない場合があります。もしくは、検討のためのマンパワーが十分でない可能性もあります。
また、製造装置メーカーも装置の保証条件に、動作を保証する原料のメーカーやグレードの指定をしています。おそらく、ロシアが提供するフッ化水素酸は、製造装置メーカーの動作を保証する原料の一覧には、含まれていません。
製品の品質に影響があると知られていなかった不純物(おそらく微量金属)や何らかの物性で、不良品が出た場合、原因を特定する必要があります。そして、装置が汚染された場合、装置の洗浄検討や原因の特定などは、自分たちで行う必要があります。
半導体材料で問題になる不純物は、基本的には、微量金属です。
半導体は、高純度のシリコンに、微量の金属をドーピングして、半導体に変化させます。
同じように、材料に含まれる金属不純物に影響を受けます。
そして、フッ化水素酸や超純水も含めて、純度の低下は、保存容器や配管などからの金属の溶出です。超純水については、多くの研究結果が公開されているので、見つけやすいですが、ガラス容器に入れておくだけで、ガラスに含まれる金属が溶け出し、超純水の純度がどんどん低下していきます。フッ化水素酸は、腐食性が高い性質を持っています。
原材料変更に半年以上かかるというのは、このあたりの作業をが関係しているのかもしれません。実際に、半導体を作って動作するチップの数を確認するために、半導体を作り初めて、完成するまでに半年ぐらいかかるのかもしれません。そのあたりも、興味が湧きます。
製造装置メーカーは、装置に使用する材料の腐食や金属溶出に関する試験を数ヶ月や数年単位で、加速試験を行っているものと思います。そのため、出自の怪しい素材では、装置の動作保証を行いません。
スケールの小さなたとえだと、インクジェットプリンターで、互換インクを使用したプリンターの保証をプリンターメーカーが行わないのと同じです。
製造装置の保証の放棄や修理拒否の可能性を許容して、保証対象外の材料を使って製造装置を動作させるか、製造装置メーカーに依頼して、保証対象外の材料が使用できるか確認してもらうかといった選択になるのではないかと思います。
大きな半導体製造業者であれば対応してくれる可能性はありますが、製造装置メーカーの発言力は、強いので、おそらく断られます。自分たちで検証する必要があります。
ちなみに、半導体製造装置メーカーのサポートは、ストップウォッチ片手に、秒単位で技術料を算出してくるので、早口で喋れることができる人が対応し、あらかじめ、問い合わせる内容をきちんとリストアップしておく必要があります。
実際には、最先端の装置であれば、動作保証も性能保証もしてくれないので、装置を使う側で検討する必要があります。洗浄装置であれば、動作保証も性能保証もしてくれないことは、ないと思います。
半導体製造業であれば、装置メーカーからも素材メーカーからも多数、出向しているので技術的には対応できると思いますが、対応によっては、それらの企業の今後の対応が変化します。企業間の駆け引きの問題です。
半導体製造メーカーが、どれだけの知識と技術を内部に貯め込むことができたかが問題になります。技術力、資本力、製品開発力、販売力などの力関係による殴り合いです。
実験室や小規模な試験生産では使えると思いますが、実生産で、原材料の変更は、うまく行かなかったときの収益に及ぼす影響が大きいので、大変なことです。
それを考えると、どのような動きをするか推測するだけでも楽しめます。
半導体の製造に関するエンジニアであれば、当たり前に知っていることかもしれませんが、こういったことがあると差し障りのない部分だと思いますが技術的内容が説明されることが多いので、楽しくなります。
私は、日本の半導体製造業が衰退したのは、製造装置の内製能力をアウトソーシングやリストラの名のもとに、切り離したことによるものだと考えています。
製造装置を内部で製造できる力がないと、技術的障壁を乗り越える自由度が少なくなります。
分野は変わりますが、国産の戦闘機開発は、実使用に耐える戦闘機が作れなくても、開発をし続ける必要があると思っています。そうでないと、その時、製品を供給できる製造メーカーに対する交渉力がどんどん失われるからです。
実際は
現在は、半導体は不況の真っ最中、DRAMもNAND型フラッシュメモリーも、国際的な価格は落ちついています。
本からのフッ化水素酸の供給が滞っても、一般品のメモリーなどの生産には、「他国の日本製ほど純度が高くない中国、台湾、韓国製のエッチングガスも使えないことはない」ので、マスコミで騒ぐほど困っていないようです。
輸出手続きの厳格化
輸出手続きがどのように厳格化されるかは、輸出業務の経験がなければ、想像もつきません。
中国のフッ化水素酸、レジスト製造企業
中国 フッ化水素酸製造企業
- 多フツ多化工(002407、深センA株)
既にサムスン電子、SKハイニックスのサプライチェーンに組み込まれており、その製品は3D-NAND、DRAMの製造過程で使用されている。2019年末には年産5000トンレベルの大型生産設備が完成、2020年第1四半期には稼働する見込み。
- 三美股フェン(603379、上海A株)
- 巨化股フェン(600160、上海A株)
- 晶瑞股フェン(300655、深センA株)
電子部品製造レベルで使える製品を作る能力がある